2005年から今までDJダイノジとして数え切れないほどの国内フェスに出演し、静岡県清水市のフェス「マグロック&フジソニック」の制作にも携わる、ダイノジの大谷ノブ彦さん。フェスの出演者、制作者としてだけでなく、ひとりの音楽好きとして、初期の「フジロックフェスティバル」(以下、フジロック)や「サマーソニック」(以下、サマソニ)、海外アーティストの数々の来日など、日本のフェスシーンをその目で見てきた参加者でもあります。さまざまな角度からフェスを見てきたと言っても過言ではない大谷さんは、今の音楽シーン、フェスシーンをどのように見ているのでしょうか。

フェスの制作に携わるも苦戦、7年後復活の理由

写真: ダイノジ大谷

―大谷さんは現在「マグロック&フジソニック」の制作に携わっていて、2008年には「MAGROCK FESTIVAL」を開催されています。

はい。芸人が主催や制作に携わる音楽イベントが増えてきたころ、まだ誰も野外フェスだけやってなかったんですよ。それで「やりたいなあ」って思ってたときにいろいろラッキーなことが重なって、静岡県の清水で、「MAGROCK FESTIVAL(現マグロック&フジソニック)」を開催できることになりました。

それこそthe pillowsとかBEAT CRUSADERSとか、めっちゃ売れてる大好きなアーティストたちに出てもらって、すっごくキャスティングに自信があったのに......いざ蓋を開けてみたらぜんっぜん人が来なくて!

宣伝とか、街の人をどう巻き込むかとかを全然考えないで、「これだけいるんだから大丈夫だろ」って、キャスティングの力だけでいけると勝手に思ってしまって、集客にかなり苦戦したんです。それを回収するために死ぬほどイベントに出ました(笑)。でも野外フェスはもう、できないんだなって。

―でもそれから2015年に、「マグロック」「フジソニック」として復活したのはなぜですか?

いろいろ振り返って、反省していたんです。いま思えばありえないんですけど、俺ら一度も清水に足運ばないで始めていて、さすがにそれはダメだろって。だってフェスって、その現場を信用していくのが大事なんですよ。たとえば「ロック・イン・ジャパン・フェスティバル」だったら、音が大きかったり環境がよかったり、うまいハム焼き食べられたり。

そのひとつひとつがフェスの良さになっているのに、「アーティストさえよけりゃ集まるだろ」なんて、めちゃくちゃ甘い気持ちでやっていた俺って、やっぱり相当おこがましいし、いろんな人に対して本当にすごく失礼なことをしたなと思ったんです。

その話を静岡朝日放送の人にしたら、「もう一度マグロックやってみませんか?」と言ってもらえて。そのとき、「もしうまくいったら、2年、3年、続けてくれませんか?」ってお願いしたんです。幸い、復活した2015年から今までずっと結果を残せているんで、続いています。

今は、時間ができたら清水にめっちゃ行ってます。それこそチケットの手売りもしてる。数枚しか売れないんですけど、それでも手売りしたことがいいんですよ。やることが大事。

DJとして意識するのは"おもてなし"

写真: ダイノジ大谷

―他のフェスにDJとして出演する側として気をつけていることはどんな点ですか?

俺、盛りあげるのは超うまくて。その能力はすごく長けたDJだと思っているんです。だけど、盛りあがることが一番だとは実際のところ全然思ってないというか......。一番はやっぱり、そのフェスのテーマとか、そのフェスの全体像みたいなのをちゃんとイメージすること。それを考えて、接客するみたいな気持ちでやっています。

だから主催の方が最初に出てくるフェスはすごく好きですね。笑いなんか取る必要ないし、来ている人たちにとって有名か無名かどうかも関係ない。ちゃんと「こういうことでフェスを始めました」って話して挨拶すると、皆の視界がひとつにちゃんと繋がるから、あれ超大事なことだと思う。最初に出てくることでこのフェスの全体像が見えると、信用になると思うんです。

だから俺もそういった"おもてなし"みたいなものを意識して、DJをするようにはしています。

―大谷さんはフェスにお客さんとして、出演者として、制作する立場として、あらゆる形で参加してきますが、中でも印象的だったフェスは何ですか?

「氣志團万博」(氣志團が地元で開催する野外フェス)かな。まず、めちゃくちゃもてなしてくれるんで、ステージ裏のアーティストがすごく楽しんでる(笑)。もちろんそれだけじゃなく、フェス初心者が行きやすいんじゃないかなって思います。

しかも会場でめちゃくちゃCDが売れるらしいんです。行く前は「自分とは関係ない」と思っていたアーティストを知って、CDを買って帰る。アーティストのメジャー感はありながらも、初めての価値観と出会う人が多くて、混ざり合った文化と地方のおもてなしを両立しているフェス。それをきっかけに幅広くいろんなフェスに行くようになる人は多いんじゃないかな。

フェス初心者は「失敗すりゃいいんだよ!」

写真: ダイノジ大谷

―フェス初心者の話が出ましたが、それこそ「フェスに行ったことがないから不安」とか「どのフェスに行ったらわからない」とか、悩む人が多いと思うんです。そういう方々にアドバイスするとしたら、どんなことがありますか?

「失敗すりゃいいんだよ!」って思ってます(笑)。とにかくまずは行ってみて、雨でビッショビショになっちゃえばいい。でも、家族旅行とかってそうじゃないですか? 楽しかったことよりも、めちゃくちゃ喧嘩したとか方が意外とよく覚えてる。だから「雨でビッショビショになって最悪」ってなれたら超ラッキー!

俺も最初のころ、なりましたもん。へとへとで、ぐっしょぐしょになった靴履いて「なんでこの靴にしたんだろうなあ」とかめっちゃ後悔した(笑)。だから、しのごの言わず気になったフェスに行ってみちゃえばいいと思います。

―それで、徐々にお気に入りのグッズとか揃えていって、自分なりの最強の装備ができていって。

そうそう! 特にフジロックは雨がハンパなくて。雨が降ると寒くなって、腹が減るんですよ。でも、そのタイミングで飯買って、よかったことがない(笑)。

雨がおさまるまで耐えてから買った方が絶対にいいのに、カレー買っちゃう。結局ずぶ濡れになったカレー見ながら、「俺は何やってんだ......」ってなるんです。でもなんか、人間のすべてがそこにあるって感じがしません? そんなときに遠くから好きな歌流れてきて......そういう方が、俺はすごく好きだなあ。

―そういうことも含めて、体験してみないとわからないですもんね。

制作側の立場のときもあるので、トイレの数とか快適さ、動線とかは細かくチェックするんだけど、その一方で、不便さを楽しむのもフェスの良さだと思っていて。不便さ込みで体感するエンターテインメントがフェスなんじゃないかと思うんです。だから、このSNS時代にすごく適していて。だって、体感したら必ず感想書くじゃないですか。どこが雨で足元悪くなってるとか、どこで写真撮るといいとか、何がおいしかったとか。そういうのって、すごく大事じゃないですか。

洋楽とか邦楽とか、分けるのがもう古い

写真: ダイノジ大谷

―これだけフェスがどんどん増えて多様化している中で、「この楽しみ方が正解!」というのは難しいですね。

そう。楽しみ方は人それぞれでよくて、たとえば「人気バンドから注目の新人までまとめて見られる、幕の内弁当みたいなところが楽しい」っていう人もいれば、からあげ弁当みたいに「とにかく好きなものだけひたすら楽しめるところが好き」っていうのもアリだと思っています。それこそ"洋楽フェス"なんて言うけど、正直もう洋楽と邦楽なんて分けること自体が古くて。

―分けるのが古い、というのは?

10代、20代くらいのアーティストと話すと、超面白いんです。街で聞こえてきた曲をShazam(シャザム)って音楽検索アプリですぐ調べて聴いて、「売れてる音楽、最高!」って言ってるんですよ。それが、どんな音楽批評よりもめっちゃいいって思ったんですよね。当然、売れている音楽ってサウンドプロダクトはしっかりしているし、それをニュートラルに聴いてる。

あと、若い子たちから「ダイノジに会えて嬉しい!」とか言われるんですよ。全然テレビ出てないのに、テレビで見たって言われるんです。何だろうと思って。そしたら、過去に2回しか出たことない「エンタの神様」を、彼らは何度もくり返し見ているって言うんです。そんな話聞いちゃったら、もう居場所がテレビだとかネットだとか、洋楽だとか邦楽だとか、その感覚自体が古いんだなって衝撃受けちゃって。

彼らはもっともっとニュートラルに、「面白い」とか「楽しい」とか感覚的に、フラットにいろんなものを体感していくんだなって思ったら、羨ましい。「俺なんか昔、めちゃくちゃ自意識と戦っていたのに!」って(笑)。

―確かに最近のヒットチャートは洋楽も邦楽もごちゃ混ぜですもんね。昔は洋楽好き、邦楽好きって分かれていることが多かったですけど、今はみんな、どっちも聴く。

でも、フジロックが始まったころは、洋楽の方が偉いと思っていたから。昔は「海外のバンドに日本が挑んだんだ、すげえ!」って気持ちだったけど、海外のアーティストがバンバン日本に来るようになっていますからね。

たとえば今年のサマソニが超楽しみなんだけど、レッド・ツェッペリンみたいなバンドいるですよ。グレタ・ヴァン・フリートってバンドなんですけど、めちゃくちゃ最高で! 本人たちも、「俺たちの後継者だ」って言っているくらい似ていて、レッド・ツェッペリンがいま再結成して脳みそ20代だったらこんなアルバム出しているよなあって思うくらい。そんなバンドがいきなりサマソニに、しかも一番大きいステージに来ちゃうんですもん。

―すごい時代ですね。

で、同じステージにTHE ORAL CIGARETTES(以下、オーラル)が出るのがまた熱い。オーラルってこれから絶対に日本のロックを背負うバンドだから。去年の暮れくらいから、一番大きいステージのメインとかトリとかやって、頭ひとつ抜けたと思うんです。

オーラルっていい意味で日本のロックバンドで。これまでの音楽からすごくアップデートもハイブリッドもされた、一番先鋭的な今の日本のロックバンドだと思う。そんな彼らが、「レッド・ツェッペリンじゃん!」とか言われてるバンドと同じステージに出るとか、超胸が熱くなる。最高って思っちゃいますね。

だから今はもう「世界に挑む」とかじゃなく、海外のアーティストも、日本のアーティストも、垣根なく楽しめちゃう。いろんなことが両立して、いろんな楽しみ方がある。そうやってワクワクするのが、今の日本のフェスなんじゃないかなあって思います。

写真: ダイノジ大谷

マグロック & フジソニック 2018

日程:
2018/10/6(土) - 10/8(月・祝)
場所:
清水マリンパーク内イベント広場 静岡市清水区港町1丁目7-8

Text:鈴木梢
Photo:Festival Life/オフィシャル提供