2018年も既に本格的な音楽フェスのシーズンに突入しました。音楽フェスといえば野外で開催するものだったかつての時代から、今では屋内開催の大型フェスティバルも増加し、年間を通しての音楽を中心とした「フェス」の数はまだまだ増え続けています。一年中全国どこかしらでフェスが開催され続けている、ある意味、音楽がエンタテインメントとして伸び続けている時代に、出演する側のアーティストは何を思っているのでしょうか?今回は、自身も4つのバンドを掛け持ちしそのすべてがライブやフェスなどに登場するという圧倒的活躍を見せる川谷絵音さんが、今、フェスについて思うことを伺います。

出会いの場として機能するけれど切り替えも大変

写真: 川谷絵音

―川谷さんはプライベートでフェスに行かれたりすることはありますか?

プライベートでは、大学生の頃に年末の「COUNTDOWN JAPAN」へ行っていたくらいですかね。バンドでデビューして以降は、逆に大体のフェスにいるんで「フェスに遊びに行こう!」という感じにはならない......。楽しそうだなあ、とは思うんですけど。あと僕、あんまりあちこち動くのが好きじゃないんで、行ったとしてもずっと同じステージにいたりします。

―常連のフェスも増えてきていると思いますが、今までに一番多く出演されたのはどのフェスでしょうか?

何になるんだろう?北海道の「JOIN ALIVE」は第一回からずっと出ていますね。あとは「ROCK IN JAPAN」「VIVA LA ROCK」「METROCK」など、毎年連続で出演しているものは多いです。

―もう定番ですね。そういうフェスに行くことで会える人がいる等、何かそれぞれに楽しみにしていることってありますか?

自分たちがあまり共演しないタイプの人たちのライブを観られるのはうれしいです。あと、これだけの数のバンドが集まることは、一年の中でもフェスぐらいしかないので。とはいいつつも年間通してフェスがあるし、しょっちゅう会うバンドとかもいるんですけど(笑)。そういう、ちょっと同窓会的な感じになるのはいいことなのかな。一方、普段だと会わないような方に現場で会えたりもします。スピッツの草野マサムネさんやMr.Childrenの桜井和寿さんとはフェスでの出会いでした。じっくり話せる時間はあんまりないんですけどね。

―都心から遠いところでの開催だと落ち着かないですか?

いやあ僕、移動が......すごく苦手なんですね。フェスで一番億劫なのは、結局「移動」です。これ、話がちょっとズレますけど、先日、渋谷でお笑いコンビ「さらば青春の光」のライブを見に行ったんですよ。そうしたらネタの中で、渋谷をゴルフ場にする、みたいな話があって。そういう風に、渋谷の街自体を全てフェスの会場にするってなってくれたら僕はすごくありがたいな、なんて思っていました。家が近いのがうれしい。いや、楽しい部分はあるんですよ?でも毎週末、飛行機に乗ったり新幹線に乗ったりしていると結構本当に疲れてくる......ってこんなインタビューで大丈夫ですか?せっかくこれフェス特集なのに、俺が「行くの疲れます」って言ってるのが太字になったりしません?(笑)

―(笑)いや、でもそれは観ている側としても思うことですから。毎週あるし、出演する方々もどうやって切り替えているんだろう、とか。

まあお客さんにとっては、たとえば「このタイミングでフェスがあるし、北海道へ行ってみよう」というきっかけにもなるし、それってすごくいいことだと思うんですよ。でも自分の場合は、正直にいえば切り替えられていない、ですよね。そうですね。問題だなと思います。それは。

―お客さん側もこれだけあると、一体どのフェスに行けばいいんだろう、と思う部分があるでしょうし。

ああ、それで言えば、最初にこのインタビューを受けるときには「フェスって、こんなにいらないんじゃないかな」ってまず思ったんですよ。それは僕が行くのが面倒くさいからとかってことじゃなくて、ですよ(笑)。もうこれだけ年中フェスがあると「フェスって何なんだろう......」ってなってくるし、大体出演者も同じような感じになりがちで。今や夏だけじゃなく、"春フェス"とかあるし年中地続き。常にある。で、秋は単独のツアーがあったりしつつ、冬もフェス的なイベントはいろいろあるじゃないですか?制作はその合間にやって。それもどうなんだろう、と。お客さん的にもどうやって選んでるのかなって、逆にこちらも気になりますね。

バンドごとに出て行く場所も変えていきたい

写真: 川谷絵音

―川谷さんの場合は現在4つのバンド(indigo la End、ゲスの極み乙女。、ジェニーハイ、ichikoro)を並行していますね。それぞれのバンドで、出演するフェスの方向性みたいなものについての違いがあったり、アーティスト側から意向を持って選んでいたりしますか?

出演するフェスに関しては、indigo la Endとゲスの極み乙女。に関してはあまり差が無いです。で、逆にichikoroに関しては、もう少し地元に根付いたような、"でっかいフェス"というより、コアな音楽ファンが来るような場に出ようかなと思っている感じはあります。去年、群馬で始まった「Topped!」という山奥でやったフェスに、ゲスで呼んでもらったんですけど、あれは普段共演しないような人たちばかりと一緒に出られて、ああ楽しいなと思った経験でした。

僕もね、フジロックとかは行きたいですよ。それは出演したいという意味でもあるし、来日するアーティストが気になっていれば、サマソニだったりフジロックだったり絶対チェックします。でも結局は自分で観に行きたいフェスって、もっと小さいものなんですよ。渋谷で往来自由でやっているイベントなどで、面白そうなメンツだなって思うと行きたいって思うことは結構あって。日本人のアーティストでも大きいフェスには出ていなくてもいっぱいいい人がいて、まあ集客は難しいと思うけど......そういうものがちゃんと成り立ってほしい。今みたいな大きいフェスを半分くらい削り、そういう小さいフェスがもう半分くらいできれば、聴く側のスタンスも変わってくるのかなと思ったりはしますけどね。

―確かにそうですね。川谷さん自身が、自分がリスナーとしてもそういうフェスに行きたいし、そういう場所が必要なんじゃないか、という。

そう。大きなフェスも必要だし、でももっと違うフェスやイベントも必要だと思うので。サカナクションの山口一郎さんがやっている「NF」っていうクラブイベントでも、彼が言っていたことには「あれをやっていることでサカナクションのファンが減った」と。クラブの音楽をイベントを通して体験して、どんどんそっちが好きになってライブやイベントもそちらへ行くようになっちゃうんだ、と。でもそれって新しい音楽に触れられる、そういう人が増えるっていう意味で、すごくうれしいことじゃないですか?だからもっと攻めたフェスみたいなものをデカい場所でちゃんと企画する人が増えればいいな、って思いますけど。......まあいろいろね、もちろん収支のお話にもなると思うので。

―川谷さん自身が何かキュレーターなど務めて開催するという考えなどは......

僕は、絶対にやらないです!

―やらないですか?

そういう責任を負いたくない、というか負えないんですよ。僕はそれを観に行きたい側、なんです。誰かにやってほしいなって。自分で音頭を取るってなったら、またちょっと違う感じになっちゃうと思う。そして段々と「やばい、このままじゃ赤字だ......!」って追い詰められて、結局は既存の大型フェスに出ているメンツを呼び始めたりして、今までと変わらないことになる......みたいなのがありそうなので。

―なるほど(笑)。

それを感じたのが、先ほど話した去年の群馬の「Topped!」で。第一回目だったし、僕らがレコーディングをしてもらっている美濃隆章さんが所属しているtoeとか、OGRE YOU ASSHOLEとか、僕がかっこいいと思うバンドがたくさん出ていて、いいなって単純に思いました。もっとああいうところに人が増えればいいのになと。

"みんなが聴いているもの"ではない音楽を知るということ

写真: 川谷絵音

―シブめの音楽をどのように届けていくか、ということにもつながるのですかね。

いや、でもね、"シブめ"って判断してるのも、結局その人の主観。日本って「みんなが聴いてるものを聴かないと!」という強迫観念に囚われている人が多いと思うんですよ。学校のクラスで、みんなと違うもの聴いてたらいじめられるじゃないですか。日本で未だにCDが売れてるのも、基本的に自分で選び取ろうとしていないからだと思う。CDなんてもう海外では"音楽を聴く"ためには必要がない、グッズのひとつみたいなものになってきていて。で、一方ストリーミングは、徐々に増えてきているとはいえ、まだまだあんまりっていうのも日本独特だなあと。

―"みんなが聴いているもの"を聴いていることで安心する、と。

そう。それとフェスの状況って同じなんじゃないかなと。自分で選び取っていない。あるものにコミットしていくためでしかない、「"楽しんでいる自分"が好き」みたいな。まあ、それはそれでいいとは思うけど、もっともっといろんな音楽があるから。だからもしCDが無くなってストリーミングだけになったらリスナーからすれば月額でしかなくて、アーティストに払われるお金については見えにくくなるし「どれにお金払ってるから聴こう」という世界ではなくなるから、もっといろんな音楽を聴いてもらえるようになると思うんですよね。

―確かに。みんながそれぞれに選び取り、強い主流みたいなものが無くなっていくのでしょうかね。

それでも、テレビなどもあるので「主流」はあるはず。でも過去の成功による価値観が無くなったときに、もっと自由な世界になるんじゃないのかなって、音楽単体では、思いますよ。

― indigo la Endでも、ゲスの極み乙女。でも。新しい人に聞いてもらう、知ってもらうために、何か普段と違うことにフェスの場で挑戦してみようという思いがありますか?

写真: 川谷絵音

ワンマンはやはり"ホーム感"があり、お客さんも曲の盛り上がる部分など聴き込んできてくれている。でもフェスだと通りがかりにちょっとだけ聞いたり、曲を知らない状態でライブを観ていることも多いので、普段よりちょっと緊張はします。MCに関しても僕の場合はあんまり変わらず、間が怖いので「誰かと喋ろう」と思うと、フェスのような大きい会場でもステージから変わらずお客さんに話しかけちゃいますから。「ああ、これで届いているのだろうか」とか、そういった不安は常にあるものの、やることはそんな変わらないです。

indigo la Endは、基本的には"音楽を演奏する"ということに集中し、あまりに突拍子もないこととかは絶対にしない、という自分達なりのスタイルがあるバンド。だから僕の中でも変えずに、ただただ演奏するみたいな感じです。ゲスの極み乙女。に関しては、去年のフェスでいきなり楽器を持たずに出ていったりとか、そういう実験みたいなことを、突然やったりしているかもしれない。

―フェスだからこその実験や挑戦をしてみた、ということですね。それはバンドの総意としてやっているんですか?

いや、特に総意とかではなく僕が「やろう!」と言い出したことをやっています。フェスもね、ずっと出続けていれば当然飽きてきちゃいますし、僕の場合はやっているバンドがひとつじゃないのもあって、そうやっていくつか出演していると本当に段々と感覚が麻痺してくる。夏は毎週末フェスにいるような状態で、途中で気が滅入ってくるわけです。開催場所が東京ではない場合も多いから「あれ?今どこにいるんだっけ?」となったりして。そういう意味でも、何か自分で面白いことしていきたいよな、とは思います。

今年からはさらにジェニーハイというバンドも増えていて、このバンドでもフェスに出ます。小藪さんやくっきーさんといった芸人さんがメンバーにいてくれるので、ゲスよりもさらに面白いことができそうだなとは思うものの、このバンドでまだ一度しかライブもやっていないので、逆に、もうフェスの場でジェニーハイの形を作り上げないといけないことになってきている、という。そしてジェニーハイに関してはフェスが最初で......最後かも?

―え!そうなんですか?!

いや、まあわからないですけど(笑)。北海道・岩見沢での「JOIN ALIVE」と山口での「WILD BUNCH」に出ることだけは決定しているんですけど、今のところなんと2曲しか無いんですよね。いや今、作ってはいますけど、よく持ち曲1〜2曲しかないバンドをフェスに呼んだなと思って。「一体どういうつもりなんだ!」と(笑)。もうMCとかでひたすらつなぐのかな......。楽しみにしておいていただければ。この夏は4つのバンドで、がんばります。

川谷 絵音 (かわたに えのん)
1988年長崎県生まれ。indigo la End、ゲスの極み乙女。、ジェニーハイ、ichikoroのバンドメンバーであり、ボーカルやギターとして活動をしている。2018年8月29日にゲスの極み乙女。から4thフルアルバム『好きなら問わない』をリリース予定。

Text:鈴木絵美里
Photo:Festival Life